あまりにも性癖本。https://amzn.asia/d/buHAfbZ
いや……元々読みたいとは思ってたんだけど、尽く買うタイミングも読むタイミングも逃して自分の記憶からこの本の存在が抜けてたのだけど、今になってふとこの本の事を思い出して……
電子書籍ならこういう事は起きないと思うのだけどね。私は書籍は紙媒体原理主義者だからね。本は紙媒体であってこそ芸術として成り立つものだと信じて疑わない危ない人間だからね。
そんでもって頼んでたこの本が今日届いたので読んだんですよ。お誂え向きの紅茶と摘める菓子までわざわざ用意して。
うん。
マジで性癖だった。
用意したチョコは溶けた。
何…?なんですか……?この……すごく身勝手極まりないこの男の救世主様への愛は……?
厭な奴だの酷い奴だの好き勝手言って、私が居なかったらとうの昔にあの人は弟子達と野垂れ死んでた、そんな私にお礼の一つも言わないなどと恩着せがましく愚痴を零して、
でもその次の頁では「私はあの人を、美しい人だと思っている。」とか言っているんですよ、この男。
しかもそれを恨んではいないとすら言っている。前の頁であれだけ文句を言っていたのにもかかわらず。
そしたらその7行くらい後に「別になんとも思ってないけど、たまには私に優しくしてくれたっていいのに、意地悪ばかりしてくる(意訳)」とか抜かしやがるし、
何だよこの男は!!言ってること滅茶苦茶じゃないか!!!最高!!
なんか初手から押し付けがましい愛でかっ飛ばしていくし、心中宣言までしてるの、何なんだよ……
「ほかの弟子たちが、どんなに深くあなたを愛していたって、それとは較べものにならないほどに愛しています。」とまで言ったそのすぐ後に同居懇願宣言して断られて、その後勝手にキレてるんですよね。情緒どうなってるんだよ。
ちなみにこの後「あの人は私を賤しめ、憎悪して居ります」と言っておりますが、これ全部彼の主観です。
そもそもこの本は彼の主観なので最初から最後まで言ってること滅茶苦茶なんですよね。好き。
ところで私、自分が愛する男が女性に心を動かされるのを見て勝手にジェラる男の描写が大好きなんですよね。
6日前、とある家に客人として招かれた(で多分合ってるよな?)時にマリヤという村娘がついうっかり香油を救世主様にぶちまけてしまうのですけどね、
この男は救世主様の事が大好きなので当然キレるのですけど、救世主様は心の広いお方なので、男を咎めたのですが、その時にこの男は自分の愛する救世主様が頬を赤らめているのが目についてしまうのですよね
それに対してこの男は目の前の女性にやましい感情を抱いたのかと勝手に誤解して、そこから滅茶苦茶に救世主様の事を言うのですけど、
これ、普通に考えてこの男が村娘に嫉妬したのを救世主様に責任転嫁してるだけですよね?
勝手に自分が美しいと感じた人は、ただの卑しい男だったと自分が勝手に誤解して幻滅してるだけですよね?それってあなたの感想ですよね?
ハァ~~~~~~~~~………ほんとおもしれーなこの男……
でもってその後老いぼれた驢馬に跨って聖地へと向かう救世主様を勝手に哀れにすら思ってるんだぞこの男……しかもなんか勝手に失望までしてるし。
「花は、しぼまぬうちこそ、花である。美しい間に、剪らなければならぬ。」とか言い出すし。辛い決心とか言っちゃうし。君最初に救世主様の事を生かして置けねぇとか言ってなかった?
でもって、こんな無茶苦茶な感情をこの男は「私の愛は純粋の愛だ。人に理解してもらう為の愛では無い。そんなさもしい愛では無いのだ。」とか言うんですよ。
はいダウト~~~!!!!
多分この男からしたらマジでそうなのかもしれないのでしょうけど、達観して見ればそんな訳ないんですよね。だってこの男、こんな事言っておいてその実誰よりも救世主様に自分の愛を理解して欲しいって思ってるじゃないですか。
自分に振り向いて欲しいって思ってるじゃないですか。
流石の私でも分かりますよ。だって私は受けが願えば本当に自分の想い全てを諦められるタイプの攻めの推しCPを推してるし……被造物であるが故のそれ以上でも以下でもない本物の無償の愛みたいな推しCPも推してるし……
ていうかこれどっちにしろ攻めの一方通行の感情じゃねぇか 好みが分かりやすいなオイ
まぁ話を戻しますが、この男の愛は間違いなくその類ではないじゃないですか。
一人の人間として彼を愛して、一生を添い遂げて、そんな想いに応えて欲しいと願ってる愛じゃないですか。求める心じゃないですか。それが叶わないから救世主様を憎んでいるんじゃないですか。
そりゃあ救世主様だって哀れに思いますよ。「生まれて来なかったほうがよかった」ってそういう意味じゃないですか……
神を信じず、愛憎を抱き、その心によって救世主とその弟子達を売るという裏切りの罪業を成そうとしている彼は、どう考えたって地獄に落とされるに決まってますよ。氷地獄に幽閉の刑です。実際ダンテの神曲だと地獄の最下層で幽閉されたルシファーに噛み砕かれてますからね。彼。
そんな永遠に救いのない地獄に堕とされるくらいなら、もう最初から生まれてこないほうが幸せだった、苦しまずに済んだっていう救世主様の憐憫じゃないですか。
その感情を表に出すくらいにはこの男を哀れんでいるんですよ、この救世主様は。
けれどこの男はそんな救世主様の慈悲深い憐憫さえも「やられた!」と思い、憤怒さえ抱き、そしてまた「あの人に心の底から嫌われている」と誤解するんですよ。
なんですかこの救いようのない身勝手な男。バカだろ。(褒め言葉)
読んでてすごく実感したのですけど、この男の不平等な救世主様への愛は救世主様には届いてないし、逆に救世主様の無償の愛は、この男には全く届いてないんですよね。
この男、最初から最後まで救世主様の言葉の意味が全く理解出来てないんですよ。慈悲も憐憫も全て軽蔑と捉えてるんですよ。
何?この…何………?この哀れとすら思えるすれ違い……
すごい最高じゃないか……
ところで私、この本で一つすごい興奮したシーンがあるんですけど(いやぶっちゃけ全部興奮してたけども)、ここだけはがっつり語ってもいいですか?
「おや、そのお金は?私に下さるのですか、あの、私に、三十銀。
なる程、はははは。いや、お断り申しましょう。殴られぬうちに、その金ひっこめたらいいでしょう。
金が欲しくて訴え出たのでは無いんだ。ひっこめろ!
いいえ、ごめんなさい、いただきましょう。そうだ、私は商人だったのだ。」
何だよこの情緒の滅茶苦茶ぶり。怖すぎだろ。ほんと好き。ここだけでご飯10杯は軽いな。
そしてこの男は最後にこう吐き捨てました。「はじめから、みじんも愛していなかった。」と。
ハァ~~~~~~!!!!お前お前お前~~~~!!!!やっぱお前最高~~~~!!!
やっぱりイスカリオテのユダはこうでなくっちゃなァ~~~~~~~!!!!
ちなみにですね、この駈込み訴えでは書かれてはいないのですが、これの原作にあたる聖典、というか新訳聖書ですね。そっちの方だと、ユダは裏切る際に「この人こそイエス様だ」と証明する為にイエス様にキスをしているんですよね。
そしてイエス様が処刑された後になって、ユダは自分の行為を強く後悔して、銀貨三十枚を返そうとして拒否られて、最後に自殺するんですよ。ええ。
後を追って、また罪を重ねたんですよ。
(キリスト教では自殺は神に与えられた肉体を自ら傷付けるという事になるので罪なんですよね)
いや……最初から最後まで最高過ぎましたね。この本。
救世主でも、神でさえも救えなかった愛を持つ男……あまりにも最高すぎました。
ご馳走様です。こんな性癖本を書いて下さった太宰治先生に最大限の感謝を。